肌の精霊と対話する。
シーズン1 月落ちの刻 ~ビワの精霊の物語~
エピソード13〈エピローグ・導かれし土地〉
──京都・夜のラボ。
Zekuでの回復を終えた高埜木魂は、なお重さの残る身体を椅子に預けていた。
銀髪はわずかに乱れ、指先はまだ冷たい。
胸元の止水の瓶が淡く揺れ、消耗しきった命の灯を支えている。
深い吐息をひとつ。
その呼吸は、まだ回復の途上にあることを示していた。
──そのとき。
室内の空気が、ふわりとやわらぐ。
薬瓶やガラス器の並ぶ棚のあいだから、かすかに甘い気配が漂った。
湿った葉と風。
その奥に、冬に咲くビワの花の香り。
白い煙のような光が揺らぎ、歪んだ空間の中に、やがて形を結ぶ。
少女のようで、成熟した女のようでもある、不思議な存在。

ビワの精霊が、ふわりと宙に浮かび、微笑んだ。
「あら、ずいぶんしなびちゃったわね。
ふふふ……」
挑発的で、どこか妖艶な声音。
けれど、その奥には慈しみの響きがあった。
高埜木魂は、まだ重さの残る身を起こし、静かに精霊を見やった。
「俺は、ただ応えてきただけや。
美が濁れば、人は迷う。
それを澄ましてやるんが、俺の役目や」
精霊は、くすりと笑った。
「ふふ……そうね、あなたはそういう人」
光を纏いながら、彼女は少し真顔になる。
「でも、あなたの道は今始まったばかり……。
もうわかってるでしょ。
あなたは、新しい導きを感じているはず。
次に出会うのは──黒い豆よ」
「……黒大豆か」
「そう。
のんびりしているようで、芯は強い。
時間をかけて、ゆっくりと応える素材。
光を知っているからこそ、闇にも耐えられる存在」

高埜木魂の目が細められる。
「……どこに、おるんや」
「北の方。
海と雪が交わる古い土地。
春の底に、ひっそりと眠る強い菌がいるわ」
精霊の声は、次第に遠のいていった。
だが、ラボの空気にはまだ甘い香気が残っている。
「ここまでよく応えたわね。
期待以上よ。ふふふ。
だから、次はもっと大きな、そして不可思議な導きと向き合うことになるわ」
その囁きを最後に、光はすっと薄れていった。
*
高埜木魂はしばらく椅子に座したまま、胸元の止水に手を添えた。
冷ややかなガラスの感触が、次の旅路を告げているように思えた。
窓の外には、夜の京都の空。
遠い北風に、かすかな雪解けの匂いが混じっていた。
「……金沢、か」
彼は静かに立ち上がった。
その背には、再び歩み出す覚悟が確かに宿っていた。

*
シーズン1終わり
シーズン2 へ続く
著者|游水(Yusui)
挿絵|Midjourney(AI生成ビジュアル/アートディレクション:Beauty Saga Studio)
制作・編集|Beauty Saga Studio
運営・発行|株式会社リーズンラボ(Reason Lab Inc.)
Special Thanks|LBH Corp.
原料およびバルク製造での技術協力により、
この物語に「手ざわり」と「香り」を与えてくださいました。
© 2025 Beauty Saga Studio / Reason Lab Inc. All rights reserved.
物語が、現実を生み出す瞬間に。— ビューティサーガスタジオ
※本サーガに登場する製品は、実在する開発背景および製造販売業の許可に基づいて構成されています。

