ヴィウの囁きと美しき挑戦。
シーズン1 始まりのささやき
プロローグ〈失墜とヴィウの囁き〉

夜が深まる東京の街。
オフィスの空気は重たく沈み、息をするたびに心臓まで圧し潰されるようだった。
積み上げられた書類の山の向こうに、夏目奈緒美はぼんやりと座っていた。
プロジェクトは完璧に進んでいるはずだった。
誰もが彼女の手腕を信じていた。
けれど、その確信は無惨に崩れ去った。
ライバル会社が、彼女たちの企画を先に発表し、まるで影のように内容をなぞっていたのだ。
先を越されただけでなく、自分の提案が巧妙に“奪われた”ように思えた。
悔しさと憤り、そして何より、自分自身への失望。
奈緒美の中で、心臓の奥に冷たい空白が広がっていった。
「……どうして」
クリエイティブディレクターとして、いくつものブランドを成功に導いてきた。
だからこそ、この敗北は、彼女の存在そのものを否定するもののように感じられた。

窓際に立ち、東京の夜景を見下ろす。
冷たく光る無数の灯りは、どれも似通っていて、どこにも“変わらないもの”を感じさせない。
すべてが流れ、すべてが消費され、すべてが忘れられていく。
彼女の心は、乾いた砂のように崩れていった。
そのとき。
机の上に置かれたスマホが震えた。
静寂を破るLINEの通知音。
画面には、知らない名前からのメッセージが浮かんでいた。
――ヴィウの囁きに耳を傾けて。
キレイは、あなたの中にある。

一瞬、奈緒美は息を呑んだ。
誰からのメッセージなのか、なぜ彼女に届いたのか、見当もつかない。
広告?いたずら?
だが、その言葉は妙に肌に触れるように、心の奥へ忍び込んできた。
まるで、耳元で誰かが囁いたような。
声ではない。
けれど、確かに“聞こえた”気がした。
「ヴィウ……?」
口の中で転がすと、不思議な余韻が残った。
その響きは異国の言葉のようでもあり、古い記憶を呼び起こす呪文のようでもあった。
奈緒美はメッセージを閉じ、深く息を吐いた。
今日の失敗で沈んだ心は変わらない。
けれど、その言葉は胸のどこかに小さな灯を残していた。

――キレイは、あなたの中にある。
意味はわからない。
けれど、その囁きは、崩れかけた日常の奥に、
まだ見ぬ「もうひとつの世界」があることを告げているようだった。

