ヴィウの囁きと美しき挑戦。
シーズン1 始まりのささやき
エピソード12〈ヴィウの正体〉
展示会から一夜が明けた。
まだ胸の奥にざわめきが残っている。
契約の数や名刺の山は確かに成果を示しているのに、それ以上に心を占めているのは、人々の反応だった。
あの会場で、光のように広がった拍手。
そして「本物だ」と口にした誰かの声。

奈緒美はスマホを手に取り、高埜木魂にメッセージを送った。
「昨日の展示会、大成功でした。
すごく嬉しいです。
ありがとうございました。」
送信ボタンを押した瞬間、彼の姿が鮮やかに浮かぶ。
京都で受けた施術の感覚、あの確かな手の温もり。
それと重なるように、クリームのことが頭をよぎった。
使い始めてから、肌の調子は見違えるほどに改善されていた。
単なるスキンケア以上に、心の支えになってくれている。

(この思いを、どうしても伝えたい)
奈緒美は続けて指を動かした。
「それと、あのクリームも本当にすごいです。
肌が引き締まって、毎日使うたびに元気になれます!」
ほどなくして返信が届いた。
画面に映し出された文字を見た瞬間、思わず息を呑んだ。
──「あのヴィウクリームが効果を発揮しているようで良かったです」
「……ヴィウクリーム?」
奈緒美の思考が一瞬止まった。
あのクリームが「ヴィウ」という名だったのか。
ずっと心に引っかかっていたその言葉。
まさか、あの不思議なメッセージと同じだったとは。

「実は、以前、不思議なメッセージが届いて……
そこにも『ヴィウ』って書かれていたんです」
送信して数秒後、今度は通話の着信。
高埜木魂の声が耳に届いた。
「おぉ、そのメッセージを受け取ってくれはったんやな。
それは驚きや」
彼は続けた。
「実はな、あれはうちの化粧師グループ『KY4』が配信しとったもんや。
ただ、最終的に上がってきたサンプル量が少なすぎて、ほんの限られた人にしか送れへんかった。
奈緒美さんもその中に入っとったんやなぁ」

奈緒美は言葉を失った。
「ヴィウの囁きに耳を傾けて。
キレイはあなたの中にある。」
あの不思議な言葉が、まさか彼らの手から発せられていたなんて。
「ヴィウっちゅうのはな、ビワのことや。
viwa いう言葉から来てて、ビワの精霊の名前なんや。
ビワにはな、素肌に働きかける精霊たちがたくさんいてはるんやで」
高埜木魂の説明に、奈緒美はさらに引き込まれていった。
ビワの精霊――。
科学と伝承の境目にあるような響き。
けれど彼の声には揺るぎがなく、不思議な説得力があった。
「ヴィウは生命の声。
肌に宿った声をもう一度響かせるためのもんや。
だから、ただのクリームやない」

電話を切ったあとも、その言葉が胸に残り続けた。
「生命の声」――。
まさに、あのジャーの中に感じていたもの。
*
奈緒美は洗面台の前に立ち、蓋を開けた。
白檀を思わせる香りが静かに広がる。
少量を指先に取り、頬にのせる。
ひんやりとした感触がすぐに体温で溶け、すっと馴染んでいく。

毎日の使用で感じる変化。
肌の弾力が増し、輪郭が引き締まるような感覚。
ただ肌が変わるだけではない。
塗るたびに「守られている」と思えるのだ。
鏡に映る自分の顔に微笑みが浮かぶ。
「このクリーム……ほんとにすごい」
気づけば、それはなくてはならない日常になっていた。
*
リビングに戻ると、健一がソファに腰掛けていた。
「疲れ、取れてきた?」
「うん、少しずつね」
奈緒美が答えると、彼はふと彼女の顔を見つめ、目を細めた。

「最近、忙しかったのに……前より肌が綺麗になったな。なんか若返ったみたいだ」
思いがけない言葉に、奈緒美は胸が熱くなるのを感じた。
(忙しさに追われていたのに、それでも変わってる……外から見ても伝わるんだ)
その一言が、彼女の心に新たな確信を与えていた。
そのとき、奥の部屋から子どもたちの笑い声が響いた。
奈緒美は健一と並んで座りながら、その声に微笑む。
(幸せだ。
これ以上、何を望むことがあるだろう)
*
けれど胸の奥に、説明のつかないざわめきが生まれていた。
確かな言葉にできるわけでもない。
ただ――その奥に強いエネルギーが潜んでいることだけは、なぜか分かってしまう。
その得体の知れない力を、喜びと同じくらい恐れている自分がいた。
窓の外に目をやると、白銀の満月が昇っていた。
光は静かに街を照らし、そのざわめきをさらに深く揺らしていた。


